「仕事がうまく続かない」
「ミスを繰り返してしまう」
「周囲に合わせるのがつらい」
ADHDの特性によって、転職に不安を感じる方は少なくありません。
でも、苦手なことがある一方で、集中力やアイデア力といった強みも持っています。
大切なのは、その特性を理解し、活かせる環境を見つけることです。

ADHD特性を活かす天職診断
この記事では、ADHDのある方が自分に合った職場を見つけ、転職を成功させるためのポイントを解説していきます。
適職の選び方や職場環境の見極め方、面接での伝え方や支援制度の活用法まで、実践的な内容を網羅しています。
「どうせ自分には無理」と思う前に、自分の特性を見つめ直すことから始めてみませんか?
転職は、自分に合った働き方を見つけるチャンスなので、安心して働ける未来を目指して一歩ずつ進んでいきましょう。
- ADHDの特性に合った職場選びのコツ
- 転職活動での自己PR・伝え方のポイント
- 利用できる支援制度と実践的な転職対策
ADHD(注意欠如・多動症)とは?仕事における主な特性と影響
ADHD(注意欠如・多動症)について正しく理解することは、ご自身の特性を仕事に活かすための第一歩です。
特に重要なのは、ADHDの特性が必ずしも弱点ではなく、環境や仕事内容によっては大きな強みにもなり得るという視点を持つことです。
この章では、ADHDの基本的な定義とタイプから、仕事における具体的な強みや課題、そして専門医への相談と自己理解の重要性について解説します。
これらの情報を得ることで、読者はご自身の特性を客観的に把握し、今後のキャリアプランを考える上での重要な指針を得ることができます。
ADHDの基本的な定義とタイプ
ADHD(Attention-Deficit Hyperactivity Disorder)とは、注意欠如・多動症とも呼ばれる発達障害の一つです。
「不注意(集中力を持続させることが難しい、忘れ物が多いなど)」、「多動性(じっとしていることが苦手、落ち着きがないなど)」、「衝動性(思ったことをすぐ口にしてしまう、順番を待てないなど)」といった特性が、様々な状況で持続的に認められる状態を指します。
これらの特性の現れ方によって、主に以下の3つのタイプに分けられます。
タイプ | 主な特徴 |
---|---|
不注意優勢型 | 集中力が持続しにくい、忘れ物が多い、作業の段取りが苦手、注意が逸れやすい |
多動・衝動性優勢型 | 落ち着きがない、じっとしていられない、しゃべりすぎる、順番を待つのが苦手 |
混合型 | 不注意、多動性、衝動性の両方の特性を併せ持つ |
筑波大学と株式会社Kaienの共同研究「発達障害のある方の就業実態調査 2023年度版 解説」によると、発達障害の診断がある就業者675人のうち、ADHDの診断を受けている方は363人(53.8%)に上ります。
多くの方がご自身の特性と向き合いながら社会で活躍されていることがわかります。
ご自身の特性がどのタイプに近いかを理解することは、具体的な対策を考える上で役立ちます。
ADHDの特性(創造性・行動力・過集中)は仕事で強みとなる場合がある
ADHDの特性は、見方を変えれば仕事における独自の強みとして発揮されることがあります。
例えば、創造性、行動力、そして特定の対象への高い集中力(過集中)は、多くの職場で価値を生み出す源泉となり得ます。
具体的には、以下のような強みが挙げられます。
強みとなる特性 | 仕事における活かし方の例 |
---|---|
創造性・発想力 | 既成概念にとらわれない斬新なアイデアを出すことが求められる企画職、デザイナー、ライターなどのクリエイティブな職種で活きる |
行動力・決断力 | 思い立ったらすぐに行動に移せるため、新規開拓営業やスタートアップ企業など、スピード感が重視される環境で力を発揮する |
過集中 | 興味のある分野や得意な作業に対して、驚異的な集中力を発揮し、質の高いアウトプットを生み出すことがある。ITエンジニアや研究職などで有利に働くことがある |
好奇心旺盛 | 様々なことに興味を持ち、新しい知識やスキルを積極的に学ぶ姿勢は、変化の速い業界や新しい技術が求められる分野で成長を後押しする |
エネルギッシュ | 多動性が良い方向に作用すると、エネルギッシュで活動的な印象を与え、周囲を巻き込む力となることがある |
これらの強みを認識し、それを活かせる仕事や職場環境を選ぶことが、ADHDの方が職業生活で充実感を得るためには重要です。
ADHDの不注意・時間管理や多動・衝動性などの特性は仕事で課題となりやすい
一方で、ADHDの特性である不注意、時間管理の困難さ、多動性、衝動性などは、仕事を進める上で課題となる場面も少なくありません。
これらの課題を事前に理解し、対策を講じることが円滑な職業生活を送るために求められます。
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の「事業主が採用後に障害を把握した発達障害者の就労継続に関する調査研究」によると、採用後にADHDと把握された従業員の職業生活上の問題点として、「複数作業の同時進行が苦手」(平均点4.1)、「仕事の優先順位付けが困難」(平均点4.0)、「不注意によるミスが多い」(平均点3.9)などが上位に挙げられています。
他にも、以下のような課題が報告されています。
課題となりやすい特性 | 仕事における具体的な現れ方の例 |
---|---|
不注意 | ケアレスミスが多い、指示を聞き逃す、物をなくしやすい、整理整頓が苦手 |
時間管理の 困難さ | 締め切りを守れない、作業時間の見積もりが甘い、遅刻しやすい |
多動性 | 会議中にじっとしていられない、貧乏ゆすりなど無意識な動きが多い |
衝動性 | 考えずに発言・行動してしまう、相手の話を遮って話し始める、感情のコントロールが難しいことがある |
コミュニケーションの課題 | 一方的に話しすぎる、場の空気を読むのが苦手、指示の理解に時間がかかる、筑波大学等の調査ではADHD診断者も「聴覚処理の弱さ・不注意」による読み書き困難を感じる場合があると報告 |
これらの課題に対しては、ツールの活用、業務プロセスの工夫、周囲の理解と協力といった対策が考えられます。
課題を抱え込まず、適切な対応策を見つけることが大切です。
専門医への相談と自己理解の重要性
ADHDの特性かもしれないと感じたら、専門医に相談し、正確な診断を受けることは、その後の対策を考える上で非常に重要です。
専門医による客観的な評価を通じて、ご自身の特性を正しく理解することができます。
筑波大学と株式会社Kaienの共同研究「発達障害のある方の就業実態調査 2023年度版 解説」によると、診断を受けたタイミングは「就業する前」が45.3%、「就業中」が31.8%、「離職した後」が23.0%であり、様々なタイミングで診断を受けていることが分かります。
自己理解を深めることは、以下のようなメリットにつながります。
- 自身の得意なこと、苦手なことを客観的に把握できる
- 苦手なことに対する具体的な対処法を検討できる
- 自分に合った仕事や職場環境を選びやすくなる
- 必要な配慮やサポートについて、周囲に的確に伝えられるようになる
- 自信を持って就職・転職活動に臨める
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の「事業主が採用後に障害を把握した発達障害者の就労継続に関する調査研究」では、診断により特性の原因が分かり、周囲の理解や協力に繋がった事例も報告されています。
同じ調査では、採用後に発達障害を把握した企業の従業員のうち、ADHDの診断名が4割強と最も多い結果も出ています。
専門家のアドバイスを受けながら自己理解を深め、それを転職活動や職場でのコミュニケーションに活かすことが、より良い職業生活を送るための鍵となります。
ADHDの方が転職を成功させるための具体的な7ステップ
転職活動を成功させるためには、計画的な準備と段階を踏んだ行動が重要です。
ADHDの特性を持つ方がご自身の強みを活かし、より働きやすい環境を見つけるためには、特に自己理解に基づいた戦略的なアプローチが求められます。
この章では、現状の整理から新しい職場への適応まで、7つの具体的なステップに分けて、ADHDの方が転職を成功させるための進め方を解説します。
これらのステップを一つひとつ着実に進めることで、読者に合った職場を見つけ、スムーズな転職を実現するための道筋が見えてきます。
ステップ1:現状整理と自己分析(ADHD特性の客観的把握、スキルの棚卸し)
転職活動を開始するにあたり、最初に行うべきことはご自身のADHD特性を客観的に把握し、これまでの職務経歴で培ってきたスキルや経験を整理する自己分析です。
この作業は、今後の転職活動の方向性を定める上で非常に重要な基盤となります。
ご自身の特性については、得意なこと、苦手なこと、集中しやすい環境、ストレスを感じやすい状況などを具体的に書き出すことが有効です。
例えば、筑波大学と株式会社Kaienの共同研究「発達障害のある方の就業実態調査 2023年度版 解説」によれば、発達障害の診断がある就業者のうち、ADHDの診断を受けている人の割合は53.8%と報告されています。
自身の特性を理解することで、仕事選びのミスマッチを防ぐことができます。
スキルの棚卸しでは、これまでの業務でどのような成果を上げ、どのような能力が身についたのかを具体的に振り返ります。
自己分析のポイント | 具体的な問いかけ・行動例 |
---|---|
ADHD特性の 客観的把握 | 医師やカウンセラーに相談し、診断内容や自身の特性について再確認 |
集中しやすい環境、苦手な作業、得意な作業をリストアップ | |
過去の成功体験や失敗体験から、特性がどのように影響したか分析 | |
スキルの棚卸し | これまでの職務経歴を振り返り、担当業務と成果を具体的に書き出し |
どのような知識・技術を習得してきたかリストアップ | |
保有資格や研修受講歴、表彰歴などを整理 | |
価値観・興味の明確化 | 仕事を通じて何を得たいか(やりがい、安定、成長など)を明確に |
興味のある分野や業界、職種をリストアップ |
この自己分析を通じて、転職活動の軸となるご自身の強みや適性、そしてどのような配慮や工夫が必要かが見えてきます。
ステップ2:キャリアプランの検討と目標設定
自己分析で明らかになった現状認識と自身の強み・弱みを基に、将来どのようなキャリアを築いていきたいか、具体的なキャリアプランを検討し、転職における明確な目標を設定します。
短期的な目標、例えば「1年以内に現在の職場よりも特性に合った環境へ転職する」といった目標だけでなく、中長期的な視点、例えば「3年から5年後には専門性を深めてこの分野でリーダーシップを発揮する」といった将来像を描くことで、目先の条件だけでなく、長期的な成長や満足度につながる転職先の選択が可能になります。
明確なキャリアプランと目標を設定することで、数多くの求人情報の中から自身に合ったものを効率的に見つけ出し、応募書類の作成や面接での自己アピールにも一貫性を持たせることができます。
ADHDの方が転職で抱えやすい悩みと、その背景
ADHDの方が転職を検討する際、特有の悩みを抱えることは少なくありません。
その背景には、ADHDの行動特性と、現在の職場環境や業務内容との間に生じるミスマッチが大きく影響しています。
ご自身の特性と現在抱えている悩みの具体的な関連性を客観的に把握することが、建設的な解決策を見出すための重要な第一歩となります。
この見出しでは、ADHDの方がなぜ転職回数が多くなる傾向にあるのか、その具体的な理由と実践的な対策について解説します。
さらに、職場で直面しやすい人間関係の構築や業務遂行、マルチタスクといった課題、そして、困難な状況下でも自己肯定感を保ち、前向きにキャリアを築くためのヒントを深掘りしていきます。
これらの情報を整理することで、読者が自身の状況を客観視し、次なる行動計画を立てるための一助となることを目指します。
なぜADHDの転職回数が多くなりがちなのか?よくある理由と対策
ADHDの特性である不注意、多動性、衝動性は、時に職場での困難につながり、結果として転職回数が増加する一因となることがあります。
筑波大学と株式会社Kaienによる共同研究「発達障害のある方の就業実態調査 2023年度版 解説」によれば、発達障害の診断がある方が現在の仕事に就くまでの平均転職回数は3.66回と報告されています。
この背景には、衝動的な判断による離職、仕事内容や職場環境とのミスマッチ、継続的な業務遂行上の困難などが複合的に関与していると考えられます。
安易な転職は根本的な解決に至らない場合が多いため、自身の特性を深く理解し、それに基づいた戦略的なキャリアプランを構築することが、結果として転職回数を減らし、安定した就労に繋がる鍵となります。
人間関係の構築・業務遂行・マルチタスク等は職場で直面しやすい悩み
ADHDの主要な特性である不注意(集中力の持続困難、忘れ物が多いなど)、多動性(落ち着きがない、じっとしていられないなど)、衝動性(考えずに行動する、順番を待てないなど)は、職場における円滑な人間関係の構築や効率的な業務遂行において、様々な課題として現れることがあります。
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の「事業主が採用後に障害を把握した発達障害者の就労継続に関する調査研究」では、ADHDと診断された従業員が抱える職業生活上の問題点として、「複数作業の同時進行が苦手」「仕事の優先順位付けが困難」「不注意によるミスが多い」「上司や同僚の指示理解が困難」「自分の意思伝達が困難(例:一方的に話しすぎる、不適切なタイミングでの発言)」などが上位に挙げられています。
これらの課題は、ADHDの方が職務を遂行する上で直面しやすい典型的な悩みと言えるでしょう。
これらの課題に対し、企業側による障害特性への理解と、それに基づいた合理的配慮の提供、そして本人自身による対処法や工夫を組み合わせることによって、より働きやすい職場環境を実現し、業務パフォーマンスの向上を目指すことが可能です。
自己肯定感を保つためのヒント
ADHDの特性に起因する業務上の困難や、周囲とのコミュニケーションにおけるすれ違いが重なることで、自己肯定感が著しく低下してしまうことは珍しくありません。
しかし、適切な心構えと具体的な行動を意識することで、自己肯定感を維持し、さらに高めていくことは十分に可能です。
職場での失敗体験や、他者からの意図しない否定的なフィードバックは、徐々に自信を蝕み、「自分は何をやってもうまくいかない」といった無力感や、さらなる業務パフォーマンスの低下といった負のスパイラルを引き起こす危険性があります。
この悪循環を断ち切るためには、まず日々の業務の中で達成可能な小さな成功体験を意識的に積み重ね、それを自己認識することが極めて重要です。
ヒント | 具体的な行動・考え方の例 |
---|---|
自身の強みと価値を客観的に認識し、活用する | 過去に他者から評価されたスキルや行動、自分が自然と楽しめる業務などをリストアップする、その強みを活かせる業務領域やタスクに積極的に関わる機会を模索する |
達成可能な具体的な小目標を設定し、クリアしていく | 大きな目標を達成可能なステップに細分化する(例:週単位、日単位の目標設定)、完了したタスクにチェックを入れるなど視覚的に達成感を得られる工夫をする |
日々の「できたこと」を記録し、肯定的に振り返る | 業務日誌や手帳などに、その日達成できたこと、工夫したこと、感謝されたことなどを簡潔に記録する、定期的に(例:週末など)見返し、自身の努力や進捗を具体的に認める |
セルフコンパッション(自分への思いやり)を育む | 失敗や困難に直面した際に、過度に自分を責めたり卑下したりせず、「誰にでも起こりうること」「この経験から何を学べるか」と建設的に捉える、自分自身に対して友人に対するように優しく接するよう意識する |
信頼できる相談相手を持つ | 悩みや不安、困難な状況を一人で抱え込まず、上司、同僚、家族、友人、あるいは産業医やカウンセラー、支援機関の専門家など、安心して話せる相手に相談する |
客観的かつ建設的なフィードバックを求める | 信頼できる上司や同僚に、自身の業務遂行やコミュニケーションについて、具体的な改善点と同時に、評価できる点についてもフィードバックを求める |
コントロール可能な範囲に集中する | 他者の感情や評価、自分ではどうにもできない外部環境など、コントロール不可能な事柄に過度に囚われず、自分の行動や思考、努力といったコントロール可能な範囲に意識を向ける |
過去の成功体験や乗り越えた困難を思い出す | これまでに困難な状況を打開できた経験や、目標を達成した時のプロセス、その際に役立った考え方や行動を思い出し、現在の状況に応用できないか検討する |
ADHDの特性に関する正確な知識を深める | 自身の特性を客観的に理解することで、困難の原因が単に「自分の努力不足」ではないことを認識する、特性に合わせた具体的な対処法や工夫を学ぶ |
適切なセルフケアを実践する | 十分な睡眠、バランスの取れた食事、適度な運動といった基本的な生活習慣を整える、趣味やリラックスできる時間を持つことで、ストレスを適切に管理し、精神的な安定を保つ |
自己肯定感は、一夜にして劇的に変化するものではありません。
しかし、日々の小さな意識改革と具体的な行動の積み重ねが、少しずつ自信を育み、より前向きで充実した職業生活を送るための確かな土台となります。
【適職発見】ADHDの特性を活かせる仕事・働き方・職場環境
ADHD(注意欠如・多動症)の特性は、時に困難さとして現れる一方で、適切な仕事や環境においては大きな強みとなり得ます。
ご自身の特性を深く理解し、それを活かせる仕事や働き方、職場環境を見つけることは、職業生活の満足度を高める上で非常に重要です。
このセクションでは、ADHDの特性を活かしやすい具体的な職種、ミスマッチの可能性がある仕事や職場の特徴、自分に合った職場環境を見極めるためのポイント、そして「障害者雇用枠」と「一般枠」のメリット・デメリットについて解説します。
ご自身の特性と照らし合わせながら、最適なキャリア選択について考えてみましょう。
自分自身の特性を客観的に把握し、それを強みとして活かせる環境を選択することが、充実した職業生活を送るための鍵となります。
ADHDの方に向いている仕事・職種10選(具体的な職種名と推奨理由)
ADHDの特性である創造性、行動力、特定の分野への高い集中力(過集中)などは、仕事において大きな強みとなる場合があります。
一般的にADHDの方に向いているとされる職種は、これらの特性を活かせるものが多く挙げられます。
筑波大学と株式会社Kaienの共同研究「発達障害のある方の就業実態調査 2023年度版 解説」によると、発達障害の診断がある就業者のうち53.8%がADHDの診断を受けており、多様な職種で活躍されています。
以下に、ADHDの特性を活かしやすいと考えられる代表的な仕事・職種を5つのカテゴリーに分けて紹介します。
ただし、これらはあくまで一般的な傾向であり、個々の特性や興味・関心、経験によって向き不向きは異なりますので、参考としてご覧ください。
職種カテゴリー | 活かせる主なADHDの特性 | 推奨理由 |
---|---|---|
クリエイティブ系 (デザイナー・ライター) | 発想力、独自性、拡散思考、好奇心 | 新しいアイデアや視点が求められ、変化に富むため飽きにくい |
IT・技術系 (エンジニア・プログラマー) | 過集中、論理的思考、問題解決能力、知的好奇心 | 特定の技術や分野に深く没頭でき、個人の裁量で進めやすい業務が多い |
専門・研究職 | 探求心、分析力、集中力、特定の分野への深い知識欲 | 興味のあるテーマを深く掘り下げることができ、知的な満足感を得やすい |
変化や動きのある仕事 (営業・接客の一部) | 行動力、外向性、コミュニケーション能力(得意な場合)、臨機応変さ | 刺激が多く、ルーティンワークが苦手な場合に適していることがある。ただし、業務内容の吟味が必要 |
自分のペースで進められる仕事 (フリーランス・一部の事務作業) | 独立心、自己管理能力(フリーランス)、集中力(特定の作業に対して) | 働く時間や場所、進め方を自分でコントロールしやすい。または、黙々と一つの作業に集中できる |
これらの職種が全ての方に当てはまるわけではありませんが、ご自身の特性を理解し、それを活かせる可能性のある仕事を探す上でのヒントとなるでしょう。
クリエイティブ系(デザイナー・ライター)は発想力や独自視点が活きる
発想力や独自の視点、既存の枠にとらわれないアイデアが求められるクリエイティブ系の仕事は、ADHDの特性である拡散的思考や新規性への関心の高さと親和性があると言えます。
デザイナーやライターといった職種では、他の人とは異なるユニークな着眼点や、多角的な情報収集能力が強みとなります。
例えば、ライターであれば、興味のある分野について深く掘り下げて記事を執筆する際に、過集中が良い方向に作用することがあります。
デザイナーの場合、新しいデザインコンセプトを生み出す過程で、次々とアイデアが浮かぶ特性が役立つでしょう。
職種例 | 活かせるADHDの特性 | 業務内容例 |
---|---|---|
デザイナー | 発想力、視覚的思考、細部へのこだわり(過集中時) | Webデザイン、グラフィックデザイン、UI/UXデザイン |
ライター | 独自の視点、多角的な情報収集、興味のある分野への集中力 | Web記事作成、コピーライティング、テクニカルライティング |
ただし、納期管理やクライアントとのコミュニケーション、細かい修正作業など、計画性や持続的な注意力が求められる場面もあります。
自己管理の工夫や、チームで業務を進める場合は周囲の理解とサポート体制も重要になりますが、特性を活かしやすい分野の一つです。
IT・技術系(エンジニア・プログラマー)は得意分野に集中しやすい
特定の分野に対する高い集中力(過集中)や論理的思考力が強みとなるIT・技術系の仕事、特にエンジニアやプログラマーは、ADHDの特性を活かしやすい職種の一つとして挙げられます。
プログラミングやシステム開発といった業務は、複雑な問題を解決するために深く思考し、黙々と作業に打ち込む時間が多くなります。
このような環境は、興味のある対象に没頭しやすいADHDの特性とマッチすることがあります。
「発達障害のある方の就業実態調査 2023年度版 解説」においても、発達障害のある方が就業している業種として「情報通信業」が17.3%と最も高い割合を示しています。
職種例 | 活かせるADHDの特性 | 業務内容例 |
---|---|---|
プログラマー | 過集中、論理的思考、知的好奇心 | システム開発、アプリケーション開発、コーディング |
システムエンジニア | 問題解決能力、分析力、特定の技術への深い探求心 | 要件定義、システム設計、インフラ構築 |
この分野は技術の進歩が速いため、新しい知識やスキルを積極的に学ぶ好奇心も活かせます。
一方で、細部への注意やテスト工程での網羅性、チームメンバーとの連携も求められるため、タスク管理ツールの活用やコミュニケーション方法の工夫が重要となります。
スキル習得への意欲と継続的な学習が、この分野で活躍するための鍵となるでしょう。
専門・研究職は知的好奇心や探求心が成果につながりやすい
ADHDの特性の一つである強い知的好奇心や特定のテーマに対する深い探求心は、専門職や研究職において大きな強みとなり得ます。
これらの職種では、特定の分野に関する知識を深め、分析し、新たな発見や考察を生み出すことが求められます。
ADHDの方が持つ、興味のある事柄に対して時間を忘れて没頭できる集中力は、このような業務において非常に有効に働くことがあります。
例えば、大学の研究者や企業のR&D部門、市場アナリストなどが挙げられます。
職種例 | 活かせるADHDの特性 | 業務内容例 |
---|---|---|
研究者 | 探求心、集中力、分析力 | データ収集・分析、論文執筆、実験 |
アナリスト | データ分析能力、論理的思考、特定分野への知識 | 市場分析、金融分析、データサイエンス |
これらの仕事は、一つのテーマに長期間取り組む粘り強さや、論理的な思考力、緻密な作業が求められることも多くあります。
しかし、自分の興味関心と仕事内容が合致すれば、高いモチベーションを維持しやすく、独自の視点からの分析や研究成果は高く評価される可能性があります。
長期的な視点と計画性も重要になりますが、知的な達成感を求める方には適した分野と言えるでしょう。
変化や動きのある仕事(営業・接客の一部)は刺激が多くて飽きない
ルーティンワークよりも変化や刺激を求めるADHDの特性は、動きのある仕事で活かせる場合があります。
例えば、営業職や一部の接客・販売職など、日々新しい人との出会いや状況の変化がある仕事は、飽きっぽさを感じやすい方にとって魅力的に映ることがあります。
持ち前の行動力や、興味のある商品・サービスに対する情熱を活かして、顧客との良好な関係を築ける可能性があります。
職種例 | 活かせるADHDの特性 | 注意点 |
---|---|---|
営業職(一部) | 行動力、コミュニケーション能力 | 目標管理、顧客との関係構築、事務作業との両立 |
接客・販売(一部) | 外向性、臨機応変な対応 | クレーム対応、マルチタスク、感情労働の側面、企業によるサポート体制の確認が必要 |
ただし、これらの仕事は対人コミュニケーション能力が常に求められる上、複数の顧客やタスクを同時に管理する能力、予期せぬ事態への臨機応変な対応も必要とされます。
そのため、一口に営業・接客といっても、扱う商材や企業の文化、チームのサポート体制によって、ADHDの特性との相性は大きく異なります。
事務作業の多さやノルマの厳しさ、感情のコントロールが求められる場面など、負担になり得る要素も考慮し、自分に合った業務内容や職場環境かを見極めることが重要です。
自分のペースで進められる仕事(フリーランス・一部の事務作業)は黙々と作業できる
ADHDの特性を持つ方の中には、外部からの指示や干渉が少なく、自分のペースで仕事を進められる環境を好む方もいます。
フリーランスとして独立したり、裁量権の大きい業務を担当したりすることは、そのような志向に合致する可能性があります。
フリーランスは、働く時間や場所を比較的自由に選択でき、自分の得意な分野や興味のあるプロジェクトを選べるメリットがありますが、一方で高い自己管理能力や営業力、不安定な収入といった側面も考慮が必要です。
「発達障害のある方の就業実態調査 2023年度版 解説」によると、発達障害のある就業者のうち「自宅での就業」をしている割合は16.1%でした。
また、事務作業の中でも、データ入力や書類整理など、特定のタスクに集中して黙々と取り組めるものは、ADHDの過集中という特性を活かせる場合があります。
「発達障害のある方の就業実態調査 2023年度版 解説」では、発達障害の診断がある方の業務内容として「事務的職業」に従事する人が44.6%と最も多いことが示されています。
ただし、事務職と一口に言っても、電話応対や来客対応、複数の業務を同時並行で進める必要がある場合は、困難さを感じることもあります。
働き方・職種例 | 活かせるADHDの特性 | メリット・注意点 |
---|---|---|
フリーランス | 独立心、専門スキル、自己管理能力 | 裁量権大、時間・場所の自由度高、収入不安定リスク、自己管理必須 |
事務作業(データ入力等) | 集中力(特定の作業に対して)、正確性 | ルーティン化しやすい業務、騒がしくない環境であれば集中しやすい、マルチタスクが少ない業務を選ぶことが重要 |
自分のペースで進められる仕事を選ぶ際には、フリーランスであれば納期管理やタスク管理を徹底する工夫、事務作業であれば業務範囲の明確さや、騒音などが少ない集中しやすい職場環境であるかどうかが、働きやすさを左右する重要なポイントとなります。
ADHDの方にはミスマッチの可能性がある仕事・職場の特徴
ADHDの特性を活かせる仕事がある一方で、特定の業務内容や職場環境は、能力を発揮しづらく、かえってストレスを増大させてしまう可能性があります。
以下に挙げる特徴は、一般的にADHDの方にとって困難を感じやすいとされるものです。
ただし、これらはあくまで傾向であり、個人の特性の強弱、本人の工夫や努力、企業側の理解や合理的配慮によって、状況は大きく変わることをご理解ください。
「報告書(176)障害者の雇用の実態等に関する調査研究」では、精神障害・発達障害を持つ人は多くの項目で工夫や手助けを必要としていることが示されています。
これらの特徴に当てはまるからといって、その仕事や職場が必ずしも不適であると断定することはできません。
例えば、マルチタスクが苦手でも、タスク管理ツールを活用したり、業務の優先順位付けを明確にしたりすることで対応できる場合もあります。
重要なのは、ご自身の特性を理解し、どのような環境であれば能力を発揮しやすいのか、どのようなサポートがあれば困難を軽減できるのかを把握することです。
自分に合った職場環境を見極めるポイント(企業文化・裁量権・物理的環境など)
転職活動において、求人票の条件だけでなく、実際に働くことになる職場環境が自分に合っているかを見極めることは、ADHDの特性を活かし、長く安定して働き続けるために非常に重要です。
「事業主が採用後に障害を把握した発達障害者の就労継続に関する調査研究」においても、企業が実施した支援・配慮として「業務指示方法の見直し」や「本人が遂行可能な職務の創出」などが挙げられており、企業の理解と環境調整が就労継続に影響することが示唆されています。
企業説明会や面接、可能であればOB・OG訪問、企業のウェブサイトや社員の口コミなどを通じて、以下のポイントについて多角的に情報を収集し、総合的に判断することが求められます。
ADHD(注意欠如・多動症)の特性を持つ方が転職を考える際、その特性への理解に基づいたサポートを提供する多様な支援サービスの存在を理解し、積極的に活用することが極めて重要です。
障害者専門の転職エージェント、一般の転職エージェント・転職サイト、就労移行支援事業所、ハローワークの専門援助部門、そして地域障害者職業センターや発達障害者支援センターといったその他の相談機関について、それぞれの特徴や活用法を具体的に解説します。
これらのサービスを適切に選択し、効果的に利用することが、読者の転職活動を成功に導くための鍵となります。
障害者専門の転職エージェント活用法は?サービスの選び方や利用の流れを解説
障害者専門の転職エージェントとは、障害のある方の就職・転職に特化した専門的なサポートを提供するサービス機関を指します。
ADHDの特性について深い知識と理解を持つキャリアアドバイザーから、非公開求人を含む多様な求人の紹介、個別の状況に合わせた応募書類の添削指導、模擬面接を含む面接対策など、多岐にわたる専門的な支援を受けることが可能です。
筑波大学と株式会社Kaienの共同研究「発達障害のある方の就業実態調査 2023年度版 解説」によると、発達障害の診断がある就業者のうち82.0%が職場に自身の障害を開示して就労しています。
このようなオープン就労を目指す場合、障害者専門の転職エージェントは特に有効な選択肢の一つとなり得ます。
ご自身の状況やキャリアプラン、希望するサポート内容を明確にし、信頼できるエージェントを選定することが、転職活動を円滑かつ効果的に進める上で非常に重要です。
転職エージェント利用のメリット・デメリット
障害者専門の転職エージェントを利用する際には、メリットとデメリットの双方を十分に理解しておくことが肝要です。
ADHDの特性を的確に把握した上で、適性の高い求人を紹介してもらえる点や、企業に対して読者の特性や必要な配慮事項を専門的な立場から説明してもらえる点は大きなメリットと言えます。
一方で、一般的な転職エージェントと比較して求人数が限定される場合があることや、アドバイザーの専門性や相性に個人差が存在する可能性も考慮に入れる必要があります。
メリット | デメリット |
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ADHD特性への専門的理解に基づいた求人紹介とキャリアアドバイス | 一般の転職エージェントと比較して求人数が少ない傾向がある |
障害者雇用枠の求人や、特性に配慮のある企業の非公開求人の紹介 | キャリアアドバイザーの専門性や経験にばらつきが見られる場合がある |
企業への特性説明や合理的配慮に関する交渉の代行・サポート | 紹介される求人が特定の地域や職種に偏る場合がある |
応募書類(履歴書・職務経歴書)の専門的な添削指導 | 必ずしも全ての希望条件を満たす求人が見つかるとは限らない |
面接対策(模擬面接、想定される質問への回答準備など) | 転職活動のプロセスにおいて、一定の期間を要することがある |
これらの利点と欠点を総合的に比較検討し、ご自身の転職戦略や優先順位に照らして、サービスの利用が最適かどうかを慎重に判断することが求められます。
アドバイザーとの効果的なコミュニケーション方法
転職エージェントのアドバイザーとの間で効果的なコミュニケーションを確立することは、転職活動の成功確度を高める上で不可欠な要素です。
最も重要なのは、ご自身のADHD特性(例えば、得意とする業務内容、苦手と感じる作業、集中力を維持しやすい環境、業務遂行上必要となる具体的な配慮事項など)について、具体的かつ率直に情報を共有することです。
「事業主が採用後に障害を把握した発達障害者の就労継続に関する調査研究」においても、企業が実施した支援・配慮の具体例として「業務指示方法の見直し(口頭だけでなく文書や図解を併用する等)」「本人が遂行可能な職務の創出」などが挙げられています。
アドバイザーにこれらの情報を事前に正確に伝えることで、より適切な求人紹介や企業への説明が期待でき、入社後のミスマッチを防ぐことに繋がります。
コミュニケーションのポイント | 具体的な行動例 |
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自己開示の範囲と内容を明確にする | 診断名、得意な業務、苦手な業務、集中できる環境、必要な合理的配慮などを整理して伝える |
希望条件を具体的に伝える | 職種、業種、勤務地、給与、働き方(オープン/クローズ、在宅勤務希望など) |
定期的な連絡と進捗共有 | 面談やメールで、選考状況や心境の変化などをこまめに報告・相談する |
不明点や懸念点は遠慮なく質問する | 求人内容、企業の雰囲気、面接対策などで疑問があれば解消しておく |
アドバイスは真摯に受け止め、自身の考えも伝える | 提案された求人や対策について、自分の意見や希望をフィードバックする |
アドバイザーを転職活動における信頼できるパートナーと位置づけ、常にオープンで建設的な対話を心がける姿勢が、より満足度の高い転職結果をもたらすでしょう。
一般の転職エージェント・転職サイトの賢い使い方と注意点
一般の転職エージェントや転職サイトも、掲載されている求人案件の絶対数の多さや、選択可能な職種の幅広さという観点から見れば、ADHDの特性を持つ方が転職活動を進める上で十分に活用を検討できる選択肢です。
しかしながら、これらのサービスは障害への専門的な知見や配慮を前提としていない場合が多いため、利用にあたっては自身の特性に関する深い自己理解と、応募先企業に関する徹底的な研究を基に、主体的に情報を吟味し取捨選択していく必要があります。
「発達障害のある方の就業実態調査 2023年度版 解説」によれば、発達障害の診断がある方の約16.1%が自宅での就業(在宅ワーク)を行っているというデータも示されており、このような柔軟な働き方が可能な求人を探す際には、幅広い案件を網羅する一般の転職サイトなどが有用な情報源となり得ます。
賢い使い方 | 注意点 |
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幅広い求人情報の中から、自身のキャリアプランに合致する可能性を探る | ADHDの特性に対する専門的な理解や、個別の状況に応じた配慮は基本的に期待できない |
業界動向や多様な職種に関する情報を収集し、企業研究に活用する | 事前の綿密な自己分析に基づき、自身の特性に合わないと考えられる求人は主体的に避ける必要がある |
企業の公式ウェブサイト等で、ダイバーシティ&インクルージョン推進に関する取り組みや方針を確認する | 障害を開示して就労(オープン就労)する場合、そのタイミングや具体的な伝え方を慎重に検討する必要がある |
スカウト機能を活用し、自身のスキルや経験に興味を持った企業からのアプローチを待つ戦略も検討する | 担当するキャリアアドバイザーが障害に関する専門知識を有していない場合、ミスマッチな求人を紹介される可能性がある |
自身のペースを保ちながら、能動的に転職活動を進めることが可能 | 求人情報が過多になりやすく、自身で情報を効率的に整理・管理する能力が求められる |
ご自身のADHD特性について、客観的かつ具体的に説明できる準備を整えた上で、これらの一般向け転職支援ツールを戦略的に活用していくことが重要となります。
就労移行支援事業所とは?受けられるサポート内容と選び方のポイント
就労移行支援事業所とは、障害者総合支援法に基づいて運営されており、一般企業等への就労を希望する障害のある方(原則として65歳未満)に対して、個別の支援計画に基づいた職業訓練、求職活動のサポート、そして就職後の職場定着支援といった一連のサービスを提供する福祉サービス機関です。
「発達障害のある学生の就労支援に向けて」の報告書においても、株式会社チャレンジドジャパンや株式会社エンカレッジなどの就労移行支援事業所の取り組み事例が紹介されています。
これらの事業所では、利用者一人ひとりの状況や目標に合わせた個別支援計画が作成され、それに基づいた多様なプログラムを通じて、就職に必要な専門スキルやビジネスマナー、コミュニケーション能力などを習得し、職場への適応力を総合的に高めることを目指します。
サービスの利用期間は、原則として2年間と定められています。
実際に複数の事業所を見学したり、体験利用制度を活用したりするなどして、プログラム内容や雰囲気、スタッフとの相性などを確認し、ご自身に最も適した事業所を慎重に選定することが、就労に向けた着実なステップを踏み出すための重要なポイントとなります。
ハローワーク(専門援助部門)の活用法
ハローワーク(公共職業安定所)に設置されている専門援助部門は、障害のある方の就職や職業生活を支援するために特化した専門の相談窓口です。
厚生労働省が公表している「発達障害者の就労支援」に関する情報によれば、これらの窓口には精神・発達障害者雇用トータルサポーター(旧:精神・発達障害者雇用支援員)などの専門知識を有する相談員が配置されています。
ここでは、個々の障害特性や職業経験、希望条件などを踏まえた上で、きめ細やかな職業相談や求人情報の提供、具体的な求職活動の進め方に関する助言、さらには就職後の職場定着に至るまでの一貫した専門的サポートを受けることが可能です。
まずは、お住まいの地域を管轄するハローワークのウェブサイト等で専門援助部門の窓口情報を確認し、電話で問い合わせるか直接訪問するなどして、積極的に活用していくことが推奨されます。
その他相談機関(地域障害者職業センター・発達障害者支援センター等)
ハローワークの専門援助部門や就労移行支援事業所以外にも、ADHDの特性を持つ方が転職活動やその後の職業生活において直面する様々な課題について相談し、専門的なサポートを受けることができる公的な相談機関が存在します。
「発達障害のある学生の就労支援に向けて」や厚生労働省の「発達障害者の就労支援」といった資料に示されているように、地域障害者職業センターや発達障害者支援センターなどがその代表例として挙げられ、それぞれの機関が持つ専門性や役割に応じて特色のある支援を提供しています。
機関名 | 主な支援内容 | 対象者(例) | 連絡先・関連情報(例) |
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地域障害者職業 センター | 専門的な職業評価(職業能力や適性の客観的把握)、職業準備支援(コミュニケーション講座、作業支援)、ジョブコーチ支援(職場に支援員が訪問し本人と事業主双方を支援)、職業リハビリテーション計画の作成と実施 | 就職、復職、または職場への適応に課題を抱える障害のある方 | 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)のウェブサイトで各都道府県のセンター所在地や連絡先を検索可能 |
発達障害者支援 センター | 発達障害のあるご本人やそのご家族からの様々な相談への対応(日常生活、コミュニケーション、就労など)、発達支援、就労支援に関する情報提供や助言、地域の関係機関(医療、福祉、教育、労働等)との連携・調整 | 発達障害のある方(年齢問わず)とその家族、及び発達障害のある方を支援する関係機関の職員など | 国立障害者リハビリテーションセンターのウェブサイト内「発達障害情報・支援センター」のページで各都道府県・指定都市に設置されているセンターの情報を検索可能 |
障害者就業・ 生活支援センター | 就業面と生活面の一体的な相談・支援の提供(職業準備訓練のあっせん、求職活動支援、職場実習の調整、職場定着支援、日常生活や地域生活に関する助言、関係機関との連絡調整など) | 就職や地域での安定した生活に課題を抱える障害のある方 | 厚生労働省のウェブサイトや各都道府県の障害福祉担当部局のウェブサイトで、お住まいの地域のセンター設置状況を確認可能 |
大学等の相談窓口 | 在学生や卒業後間もない卒業生を対象としたキャリア相談、就職活動支援、就労支援機関との連携によるサポート(「発達障害のある学生の就労支援に向けて」では、富山大学、京都大学、九州大学などの具体的な取り組み事例が紹介されています) | 当該大学等に在籍する学生や、卒業後一定期間内の卒業生(具体的な対象者や支援内容は各大学により異なります) | 各大学・短期大学・高等専門学校等の学生相談室、キャリアセンター、障害学生支援室などのウェブサイトで確認 |
これらの支援機関は、それぞれが持つ専門分野や主な対象者が異なります。
ご自身の現在の状況や抱えている課題、そして求めるサポートの内容を明確にした上で、どの機関に相談するのが最も適切かを検討し、積極的にコンタクトを取ることが大切です。
よくある質問(FAQ)
- ADHDと診断された後、会社に伝えるべきか(オープン就労かクローズ就労か)で悩んでいます。企業側の視点も踏まえて、それぞれのメリット・デメリットを教えてください。
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ADHDの診断を受けた後、会社にその事実を伝えるか否か(オープン就労かクローズ就労か)は、ご自身の働き方やキャリアプランに大きく影響する重要な選択です。
企業側の視点も踏まえ、それぞれの一般的なメリット・デメリットを理解することが大切です。
オープン就労は、企業にADHDであることを開示して働く方法です。
メリットとしては、企業から障害特性に応じた合理的配慮(業務内容の調整、ツールの利用許可、通院への配慮など)を受けやすくなる点が挙げられます。
筑波大学と株式会社Kaienの共同研究「発達障害のある方の就業実態調査 2023年度版 解説」によると、発達障害の診断があり職場に障害を開示している人は82.0%に上ります。
周囲の理解とサポートを得ながら、働きやすい環境を整えられる可能性があります。
デメリットとしては、求人の選択肢が障害者雇用枠中心になる場合があることや、企業によっては配属部署や業務内容が限定される可能性が考えられます。
一方、クローズ就労は、企業にADHDであることを開示せずに働く方法です。
メリットは、障害の有無に関わらず、一般の求人枠で応募でき、職種や業務内容の選択肢が広がる可能性がある点です。
デメリットとしては、必要な合理的配慮を受けにくいことや、特性による困難を一人で抱え込みやすい点が挙げられます。
企業側も、従業員の困難の背景が分からず、適切なサポートができない可能性があります。
どちらを選択するにしても、ご自身の特性をよく理解し、どのような働き方が適しているか、どのようなサポートがあれば能力を発揮しやすいかを考えることが重要です。
- 転職活動で、履歴書や職務経歴書にADHDについて書くべきか、また面接対策としてどのように伝えれば良いか悩んでいます。企業はどのような点を見ていますか。
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ADHDについて転職活動時の応募書類(履歴書、職務経歴書)に記載するか、また面接対策としてどのように伝えるかは、オープン就労を選択する場合に重要なポイントとなります。
企業は、応募者が自身の特性を客観的に理解し、それを仕事にどう活かすか、また苦手なことに対してどのような対策を講じているかを知りたいと考えています。
書類への記載については、障害者求人枠で応募する場合は、障害者手帳の種類や等級、必要な配慮事項などを記載するのが一般的です。
一般求人枠でオープンにする場合は、職務経歴書の中で、自身の強みと関連付けて特性に触れたり、自己PR欄で活かす工夫や配慮を希望する旨を簡潔に記載したりする方法があります。
面接では、単にADHDであると伝えるだけでなく、以下の点を整理して具体的に説明できるように準備しましょう。
- 自身の特性の客観的な理解: どのような状況でどのような特性が現れやすいか。
- 強みとして活かせる点: 創造性、行動力、過集中など、仕事で発揮できる強みは何か。
- 苦手なことと具体的な対策: どのような業務や状況が苦手で、それに対してどのような工夫や対策(ツールの活用、周囲への依頼方法など)をしているか。
- 企業への貢献意欲: これまでの経験やスキルを活かし、入社後にどのように貢献できるか。
- 必要な合理的配慮: もし企業側に求める配慮があれば、具体的かつ建設的に伝える。
企業は、応募者が自身の特性と向き合い、課題解決に向けて主体的に取り組む姿勢や、前向きに業務に取り組む意欲があるかを見ています。
- ADHDの特性である集中力維持の難しさやコミュニケーション能力に関する課題に対し、入社後に企業にどのような合理的配慮を求めることができますか。具体的な例はありますか。
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ADHDの特性として、集中力維持の困難さや、コミュニケーション能力に関する課題を感じる方もいらっしゃいます。
企業に対して合理的配慮を求めることで、働きやすい環境を整え、業務に集中しやすくなる場合があります。
障害者雇用促進法では、事業主に対し、障害のある従業員からの申し出に基づき、過度な負担にならない範囲で合理的配慮を提供することが義務付けられています。
具体的な合理的配慮の例としては、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の「事業主が採用後に障害を把握した発達障害者の就労継続に関する調査研究」でも、企業が実施した支援・配慮として以下のようなものが挙げられています。
集中力維持の支援例:
- 騒音や視覚的な刺激が少ない、集中しやすい作業場所の提供(例:パーテーションの設置、窓から離れた席への配置)
- 業務指示を一度にまとめて出すのではなく、細分化して一つずつ伝える
- 作業時間の区切りを明確にするためのタイマー使用の許可
- 集中が途切れた際の短時間の休憩取得の許可
コミュニケーション支援例:
- 口頭での指示に加え、メモやメールなど視覚的な情報で補足する
- 指示内容の復唱確認を奨励する
- 会議のアジェンダを事前に共有し、発言のタイミングを分かりやすくする
- 定期的な1on1ミーティングで、業務の進捗や困りごとを相談しやすい環境を作る
これらの配慮はあくまで一例です。
ご自身の特性や業務内容に合わせて、どのような工夫やサポートがあれば業務を円滑に進められるかを具体的に企業に伝え、相談することが重要です。
- ADHDの特性を活かす仕事としてクリエイティブ職やプログラマーなどが挙げられますが、事務職で働き続けることは難しいのでしょうか。事務職でも特性を活かす工夫や対策はありますか。
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ADHDの特性を活かす仕事として、発想力が求められるクリエイティブ職や、特定の分野に深く集中できるプログラマーなどがよく挙げられます。
しかし、事務職でADHDの特性を持つ方が活躍することも十分に可能です。
筑波大学と株式会社Kaienの共同研究「発達障害のある方の就業実態調査 2023年度版 解説」によると、発達障害の診断がある方のうち「事務的職業」に従事している割合は44.6%と最も高くなっています。
事務職は多岐にわたる業務を含みますが、ADHDの特性を活かすための工夫や対策を講じることで、働きやすさやパフォーマンスの向上が期待できます。
特性を活かす工夫・対策の例:
- 過集中を活かす: データ入力や書類整理など、一人で黙々と取り組める特定の業務に集中できる時間を確保する。
- 視覚的な工夫: ToDoリストや付箋、色分けなどを活用し、タスクや優先順位を視覚的に管理する。
- 時間管理ツールの活用: スマートフォンのアラーム機能やタスク管理アプリを利用し、締め切りや予定をリマインドする。
- 整理整頓の習慣化: デスク周りや書類を整理整頓するルールを作り、物を探す時間を減らす。
- マルチタスク対策: 複数の業務を同時に行う場合は、優先順位を明確にし、一つずつ取り組むよう意識する。上司に相談し、業務の優先順位付けのサポートを求めることも有効です。
- コミュニケーションの工夫: 指示はメモを取る、不明点はその場で確認する、報告・連絡・相談をこまめに行うなど、誤解を防ぐための工夫をする。
企業に自身の特性を伝え、集中力維持のための環境調整(静かな場所での作業許可など)や、業務の進め方に関する相談ができると、より働きやすい環境を整えやすくなります。
事務職の中でも、ルーティン業務が多い職場や、自分のペースで進めやすい業務がある職場など、環境によって働きやすさは異なります。
- 過去に転職回数が多いことがコンプレックスです。ADHDの特性上、仕事が続かないのではないかと不安ですが、企業は転職回数をどのように評価しますか。また、採用面接でどのように説明すれば良いでしょうか。
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ADHDの特性により、過去の転職回数が多いことに悩まれたり、仕事が続かないのではないかと不安を感じたりする方もいらっしゃるでしょう。
企業が転職回数を見る際には、回数の多さそのものよりも、その理由や経験から何を学んだか、そして今後どのように貢献してくれるかに注目します。
筑波大学と株式会社Kaienの共同研究「発達障害のある方の就業実態調査 2023年度版 解説」によると、発達障害の診断がある方の平均転職回数は3.66回というデータもあります。
単に回数が多いからといって、一律に不利になるとは限りません。
採用面接対策としては、以下の点を意識して説明することが重要です。
- 一貫したキャリアの軸を示す: 各転職でどのような経験やスキルを身につけようとしてきたのか、キャリアにおける目標や志向性を伝える。
- ポジティブな転職理由を説明する: 前職の不満ではなく、新しい環境で挑戦したいことや、より自身の特性や強みを活かせる仕事への意欲を強調する。
- 各職務経験から得た学びを具体的に話す: それぞれの職場でどのような経験をし、そこから何を学び、次にどう活かそうと考えたかを具体的に説明する。
- ADHDの特性への自己理解と対策を伝える: もしオープン就労で特性について触れる場合、過去の経験を踏まえて自身の特性をどう理解し、今後はどのような対策を講じて仕事に取り組むかを具体的に示す。例えば、「以前はマルチタスクで混乱することがありましたが、現在はタスク管理ツールを活用し、優先順位をつけて一つずつ取り組むことで対応しています」など。
- 入社意欲と長期就労の意思を明確に伝える: これまでの経験を踏まえ、なぜこの企業で働きたいのか、そして今後は腰を据えて貢献したいという意思を明確に示します。
企業は、応募者が過去の経験を糧に成長し、自社で安定して能力を発揮してくれることを期待しています。
正直かつ前向きな姿勢で説明することが、企業の理解を得る上で大切です。
- 未経験職種への転職や年齢に関する不安に対し、ADHDの特性を持つ人はどのように対応すれば良いでしょうか。
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大人のADHDと診断され、未経験の職種への転職を考えたり、年齢的な不安を感じたりすることは自然なことです。
ADHDの特性の有無にかかわらず、これらの不安は多くの方が抱えるものです。
大切なのは、不安を認識した上で、具体的な行動計画を立てることです。
未経験職種への転職のポイント:
- 徹底的な自己分析と適性の見極め: なぜその職種に興味を持ったのか、ご自身のADHDの特性(強み・苦手)と新しい職務内容がどのように関連するかを深く分析します。強みを活かすことができるか、苦手な部分をどのように対策できるかを具体的に検討しましょう。
- スキルの棚卸しとポータブルスキルの活用: これまでの職務経験で培ったスキルの中で、新しい職種でも応用可能な「ポータブルスキル(コミュニケーション能力、問題解決能力、自己管理能力など)」を洗い出し、アピールできるようにします。
- 学習意欲と行動: 未経験分野の知識やスキルを積極的に学ぶ姿勢を示します。資格取得を目指したり、オンライン講座を受講したり、関連書籍を読んだりするのも良いでしょう。
- 情報収集と企業研究: 業界の動向や、その職種で活躍している人のキャリアパスなどを調べます。企業によっては、未経験者向けの研修制度が充実している場合もあります。
年齢に関する不安への対応:
- 経験の価値を認識する: これまでの社会人経験で培ったビジネスマナーや対人スキル、問題解決能力などは、年齢を重ねたからこその強みです。これらを新しい職場でどう活かせるかを考えましょう。
- 柔軟性と学習意欲をアピールする: 新しい環境や仕事内容に対して柔軟に対応できること、そして新しいことを学ぶ意欲が高いことを示すことが重要です。
- 現実的な目標設定: 最初から高い給与や役職を求めすぎず、まずは新しい分野で経験を積むことを優先する姿勢も大切です。
- 支援機関の活用: ADHDに理解のある転職エージェントやハローワークの専門窓口、就労移行支援事業所などに相談し、客観的なアドバイスやサポートを受けることも有効です。これらの機関では、ADHDの方向けの転職求人情報や、未経験者歓迎の求人を紹介してもらえる可能性もあります。
ADHDの特性を理解し、それを踏まえた上で計画的に行動すれば、未経験の分野や年齢に関わらず、新たなキャリアを築くことは十分に可能です。
まとめ
ADHDの特性を持つ読者が転職を成功させるためには、ご自身の強みと課題を深く理解し、それを活かせる仕事や働き方、そして適切なサポートを見つけることが最も重要です。
この記事では、ADHDの特性を活かしたキャリア選択と、その実現に向けた具体的なステップを解説しました。
- ADHDの特性の客観的把握と、強みを活かすための自己分析の実行
- 適職の見極め方と、自身に合った職場環境を選択する視点
- オープン就労とクローズ就労のメリット・デメリットの理解と、最適な働き方の検討
- 転職エージェントやハローワークなど、活用できる多様な支援サービスとその活用方法
この記事で得た情報を基に、まずはご自身の状況を整理し、利用できる支援機関への相談など、具体的な第一歩を踏み出してください。