12時間労働はきつい!働き続けると体力・精神的に悪影響の可能性が高い

12時間労働はきつい!法律違反の事例と転職・退職の解決策を解説

1日12時間という長時間労働は、放置すれば深刻な健康被害や法律違反につながる可能性があり、ご自身の労働条件が適法であるかを正確に把握することが最も重要です。

この記事では、1日12時間労働が「きつい」と感じる理由や心身への具体的な影響、労働基準法における適法性の判断基準、そして有給休暇の取得や会社への相談、さらには転職といった現状を打開するための具体的な解決策を、企業の視点も踏まえながら専門的に解説します。

この記事でわかること
  • 1日12時間労働における適法性の判断基準と36協定の役割
  • 長時間労働が心身に及ぼす具体的な健康リスク
  • 過酷な労働環境を改善するための具体的な対処法と選択肢

この記事を読めば、12時間労働における法的側面や健康リスク、具体的な解決策について理解を深めることができます。

12時間労働がきついと感じている方はぜひ最後までご覧ください。

労働基準法では、1日8時間、週40時間以上の労働は禁止されています。あなたの1日12時間労働は36協定を結んでいる一時的なものか確認をしましょう。

目次

12時間労働は体力・精神に悪影響を及ぼす可能性が高い

1日12時間労働がきついと感じる主な理由は、心身への過度な負担と、それによる生活への多大な影響です。

長時間労働による限界、プライベート時間の喪失、過労死ラインへの接近、キャリア形成機会の損失といった兆候は、現在の労働環境が持続可能でない可能性を示唆し、働き方を見直す重要なサインとなります。

これらの兆候は、現在の労働環境が持続可能でない可能性を示唆しており、自身の働き方を見直す重要なサインとなります。

1日の半分を占める長時間労働が毎日続くのは体力的にも精神的にも限界

1日12時間という労働時間は、文字通り1日の半分を勤務に費やすことを意味します。

このような状態が常態化すると、十分な休息や睡眠時間を確保することが困難になり、慢性的な疲労が蓄積されます。

厚生労働省の令和5年「労働安全衛生調査(実態調査)」によれば、仕事や職業生活で強いストレスを感じる労働者のうち、39.4%が「仕事の量」をストレスの主な内容として挙げています。

結果として、集中力の低下や判断ミス、さらには免疫力の低下といった身体的な不調に加え、イライラや不安感、抑うつ気分といった精神的な不調も現れやすくなります。

このような体力的・精神的な限界サインを見逃さず、適切な対処を行うことが重要です。

帰宅したら寝るだけの生活が続くとプライベートの時間がなくなる

12時間労働が続くと、通勤時間や最低限の生活維持活動(食事、入浴など)を除くと、自由に使える時間はほとんど残りません

このような生活は、日々の楽しみやリフレッシュの機会を奪い、個人の生活の質を著しく低下させます

趣味や自己啓発に充てる時間、家族や友人と過ごす時間、あるいは単に心身を休めるための時間が失われることは、精神的な充足感を損ない、社会的な孤立感を深める要因ともなり得ます。

プライベートの時間が「寝るだけ」になってしまう状況は、ワークライフバランスの崩壊を示しており、長期的に見て心身の健康を維持する上で大きな問題です。

12時間労働が続くと月100時間残業の過労死ラインに届くので危険

「過労死ライン」とは、健康障害リスクが高まると医学的に判断される時間外労働時間の目安であり、一般的に発症前1ヶ月間に概ね100時間、または2~6ヶ月平均で月80時間を超える時間外労働が該当するとされています。

1日12時間労働が常態化し、法定労働時間である1日8時間を超える労働が毎日4時間続いた場合、月の勤務日数が20日だとすると月80時間、25日だと月100時間の時間外労働となり、まさにこの過労死ラインに到達するか、あるいは超える可能性があります。

厚生労働省の「長時間労働者への医師による面談・指導の手引き」でも、月80時間を超える時間外・休日労働を行い疲労の蓄積が認められる労働者は医師による面接指導の対象としています。

このような状態は、脳・心臓疾患の発症リスクを著しく高めるため、極めて危険な状態であると認識する必要があります。

成長やキャリア開発の時間が奪われるので将来が不安

日々の業務に追われる12時間労働の生活では、自己の成長やキャリア開発に必要な時間を確保することが極めて困難になります

新しい技術の習得、専門知識の深化、資格取得のための学習、業界動向のキャッチアップといった活動は、将来のキャリアパスを築く上で不可欠な要素です。

しかし、長時間労働によって心身ともに疲弊している状態では、これらの活動に取り組む気力も体力も湧きません。

結果として、自身の市場価値を高める機会を逸し、変化の速い現代社会においてキャリアの停滞や将来への不安を感じることにつながります。

自身のキャリアを長期的な視点で考えた場合、成長の機会が奪われることは深刻な問題であり、働き方を見直す大きな動機となり得ます。

12時間労働が続くとなぜ危険?心身の健康に深刻な悪影響がある

1日12時間労働の継続は、心身の健康に重大なリスクをもたらすため、極めて危険な状態であると認識する必要があります。

睡眠不足による生産性の悪化、精神的ストレスによるメンタルヘルス不調、不規則な生活による生活習慣病リスクの増大、ワークライフバランスの崩壊といった深刻な影響が考えられ、早期の対策が不可欠です。

これらの健康問題は、個人の生活の質を著しく低下させるだけでなく、最悪の場合、生命に関わる事態にもつながりかねないため、早期の対策が不可欠です。

睡眠不足で日中の集中力低下と生産性悪化につながる

睡眠不足とは、心身の回復に必要な質の高い睡眠が量的に不足している状態を指します。

12時間労働が常態化すると、必然的に睡眠時間が削られ、この状態に陥りやすくなります。

厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」によると、成人に推奨される睡眠時間は6時間以上とされていますが、12時間労働ではこの確保が困難となり、日中の眠気、判断力や集中力の低下を招き、業務効率の著しい悪化につながります。

結果として、ミスや事故のリスクが高まり、企業全体の生産性にも悪影響を及ぼすことになります。

居眠り運転などによる交通事故といった深刻な事故を引き起こすリスクがある

特に注意が必要なのは、睡眠不足が引き起こす交通事故のリスクです。

建設業や運輸業など、業務で自動車の運転が伴う場合、睡眠不足による居眠り運転は、本人だけでなく他者の生命をも脅かす重大な事故に直結する可能性があります。

企業には労働者の安全を確保する義務があり、睡眠不足を誘発するような長時間労働を放置することは、安全配慮義務違反と見なされる可能性も否定できません。

慢性的な精神的ストレスの蓄積とうつ病などメンタルヘルス不調の発症リスクがある

メンタルヘルス不調とは、精神的な健康状態が悪化し、日常生活や社会生活に支障をきたす状態のことです。

長時間の労働は、心身の疲労回復を妨げ、過度なストレスを継続的に与えることになります。

令和5年の「労働安全衛生調査(実態調査)」によると、仕事や職業生活で強い不安、悩み、ストレスを感じる労働者の割合は82.7%にのぼり、その内容として「仕事の量」を挙げる人が39.4%もいます。

12時間労働が続けば、このような精神的ストレスが慢性的に蓄積し、不安障害やうつ病といったメンタルヘルス不調を発症するリスクが著しく高まります。

メンタルヘルス不調は、個人のキャリアだけでなく、企業の生産性にも大きな損失をもたらすため、予防と早期対応が重要です。

不規則な生活により高血圧・糖尿病など生活習慣病の発症リスクが高まる

生活習慣病とは、食事、運動、喫煙、飲酒、ストレスなどの生活習慣がその発症や進行に深く関与する疾患群の総称です。

12時間労働は、これらの生活習慣を大きく乱す要因となります。

具体的には、帰宅時間が遅くなることによる食事時間の不規則化や外食・偏食の増加、睡眠不足、運動不足などが挙げられます。

これらの要因が複合的に作用し、高血圧症、糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病の発症リスクが上昇します。

これらの疾患は、初期には自覚症状が少ないものの、進行すると脳血管疾患や心疾患など、より深刻な合併症を引き起こす可能性があるため注意が必要です。

プライベートの時間がなくなり、ワークライフバランスが崩れて人間関係に支障をきたす

ワークライフバランスとは、仕事と私生活の調和が取れた状態を指します。

1日12時間という労働時間は、1日の半分を仕事に費やすことになり、このバランスを著しく損ないます。

家族と過ごす時間、趣味や自己啓発に充てる時間、友人との交流といったプライベートな時間が極端に制限されます。

このような状況が続くと、家族関係の悪化、友人関係の希薄化、社会からの孤立感などを招き、精神的な健康にも悪影響を及ぼすことがあります。

仕事は生活を支えるための手段であり、仕事のために私生活の全てが犠牲になるような状態は健全とは言えません。

12時間労働が続いてきつい時の対処法について

1日の大半を仕事に費やす12時間労働が継続することは、心身ともに大きな負担となり得ます。

ご自身の健康とキャリアを守るためには、現状を変えるための具体的な行動を起こすことが重要です。

具体的な対処法としては、まず休息を確保するための有給休暇の取得、次に職場環境の改善を求めるための会社への相談、そして状況が改善しない場合の最終的な手段として、転職サイトや転職エージェントを活用した転職活動の開始などが考えられます。

これらの対処法を、ご自身の状況や心身の状態に合わせて段階的に、あるいは組み合わせて検討することが、12時間労働という厳しい状況から脱却するための第一歩となるでしょう。

有給休暇を取得するなど休みの日を作る

年次有給休暇は、労働基準法で定められた労働者の権利であり、心身の疲労回復やリフレッシュのために積極的に活用すべきです。

企業には、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、そのうち年5日については使用者が時季を指定して取得させることが法律で義務付けられています

これは、労働者が確実に休息を取れるようにするための措置です。

厚生労働省が公表した「令和5年就労条件総合調査」によると、令和4年(または令和3会計年度)の労働者1人平均の年次有給休暇取得率は62.1%と過去最高を更新しましたが、依然として全ての労働者が十分に休暇を取得できているわけではありません。

12時間労働が続き疲労を感じているのであれば、まずは年次有給休暇を利用して意識的に休みの日を作り、心身を休ませることが大切です。

まずはまとまった休みを取り、心と体を休ませることが、現状を冷静に把握し、次の行動を考えるためのエネルギーとなります。

会社や部署に改善できないか相談する

労働時間や業務量について、まずは直属の上司や人事・労務担当部署に相談し、具体的な改善を求めることが、問題解決の最初のステップとなり得ます。

相談する際には、感情的に窮状を訴えるのではなく、客観的な事実に基づいて伝えることが重要です。

例えば、タイムカードのコピーや業務日報、PCのログなど実際の労働時間を示す記録、それによって生じている具体的な心身の不調(医師の診断があれば診断書)、業務効率の低下などを整理して伝えましょう。

厚生労働省の「令和5年『労働安全衛生調査(実態調査)』」によれば、現在の仕事や職業生活に関することで、強い不安、悩み、ストレスを感じる事柄がある労働者の割合は82.7%に上り、そのストレスの内容として「仕事の量」を挙げる人が39.4%(複数回答)もいます。

会社は労働契約法に基づき、労働者の生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする義務(安全配慮義務)を負っています。

企業には労働者の健康と安全に配慮する義務があるため、誠意ある対応が期待されます。

しかし、相談しても状況が改善されない、あるいは取り合ってもらえない可能性も念頭に置き、その場合の次の対応策も考えておくことが求められます。

改善されないなら労働組合や労基・ユニオンなどの公的機関・専門機関に相談することも検討

社内での相談によっても12時間労働の状況が改善されない場合、労働組合(社内にあれば社内の組合、なければ社外の合同労組・ユニオン)、労働基準監督署、弁護士といった外部の公的機関や専門機関に相談することを検討する必要があります。

労働基準監督署内には「総合労働相談コーナー」が設置されており、予約不要・無料で専門の相談員が労働問題に関するあらゆる相談に対応しています。

匿名での相談も可能であり、労働基準法等の法律に基づいたアドバイスや、必要な場合には関係機関の情報提供も受けることが可能です。

厚生労働省の発表によると、令和3年度には全国の総合労働相談コーナーで約124万件の相談が寄せられています。

これらの機関は、労働者の権利を守るための専門知識と経験を有しており、個々の状況に応じた適切なアドバイスや支援を提供してくれます。

一人で抱え込まず、専門家の力を借りることも、ご自身の権利を守り、状況を改善するための有効な手段です。

転職サイトや転職エージェントに登録して転職活動を開始する

現在の職場で労働環境の改善が期待できない、あるいは心身の健康がこれ以上損なわれる危険性があると感じる場合、転職サイトや転職エージェントに登録し、新たな職場を探すことも有力な選択肢の一つです。

特に12時間労働という長時間労働が常態化している状況では、在職しながらの転職活動は時間的にも精神的にも大きな負担となるため、転職エージェントのサポートを積極的に活用することが効果的です。

転職エージェントは、一般には公開されていない非公開求人の紹介、キャリアに関する相談、応募書類の添削、面接対策など、転職活動全般にわたるきめ細やかな支援を提供してくれます。

厚生労働省が実施している雇用動向調査などでも、転職理由として「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」という項目は常に一定の割合を占めており、労働条件の改善を求めて転職する人は少なくありません。

新しい環境で働くことは、ワークライフバランスの改善だけでなく、キャリアアップや新たなスキルの習得につながる可能性も秘めています。

ご自身の将来にとって前向きな一歩となるよう、慎重かつ計画的に進めることが大切です。

退職して失業給付をもらいながら次の仕事を探すことも検討する

心身の疲労が著しく、在職しながらの転職活動が困難であると判断される場合、一度退職して失業保険(基本手当)を受給しながら、心身の回復を図りつつ、じっくりと次の仕事を探すという選択肢も検討に値します。

失業保険は、原則として離職日以前2年間に被保険者期間(雇用保険に加入していた期間)が12か月以上あることなどの受給資格を満たせば、再就職するまでの一定期間、生活費の支援を受けることができる公的な制度です。

ただし、自己都合退職の場合は通常、7日間の待期期間に加えて2~3ヶ月程度の給付制限期間が設けられる点には注意が必要です。

しかし、心身の不調(医師の診断書が必要な場合があります)、ハラスメント、月45時間を超える時間外労働が3ヶ月以上続くなど、会社都合に近いと判断される「正当な理由のある自己都合退職」としてハローワークに認められた場合は、この給付制限期間なしで受給できることもあります。

何よりもまずご自身の心身の健康回復を最優先し、十分な休養期間を確保した上で、焦らずに自分に合った次のキャリアを考えることが大切です。

ハローワークでは、失業給付の手続きだけでなく、職業相談や職業紹介、職業訓練の案内なども行っていますので、積極的に活用するとよいでしょう。

1日12時間労働は違法?合法の場合と明確に違法な場合がある

1日12時間労働という働き方は、労働者の心身に大きな負担をかける可能性がありますが、直ちに違法となるわけではありません。

重要なのは、その労働が労働基準法に定められた厳格な条件を満たしているかどうかです。

具体的には、労働基準法が定める労働時間の上限を超えて労働させる場合のルール、すなわち時間外労働に関する労使協定である36協定の締結とその上限時間、そして法定の割増賃金が適切に支払われているか、さらに、これらの労働実態を客観的な記録で証明できるかという点が、合法・違法の判断を左右する主要なポイントとなります。

これらの条件を一つずつ確認し、ご自身の状況を正確に把握することが求められます。

労働基準法が定める労働時間の上限の週40時間を超える場合は36協定の締結が必須

法定労働時間とは、労働基準法第32条によって定められた労働時間の上限のことで、原則として1日8時間、週40時間と規定されています。

したがって、1日12時間労働で、企業が定める所定労働時間が8時間の場合、1日に4時間の時間外労働が発生することになります。

この法定労働時間を超えて労働者に時間外労働をさせるためには、企業は労働者の過半数で組織する労働組合、または労働者の過半数を代表する者との間で書面による協定(一般に「36協定(サブロク協定)」と呼ばれます)を締結し、所轄の労働基準監督署長に届け出る必要があります。

厚生労働省の「労働時間制度等に関するアンケート調査結果(速報値)」(令和5年)によると、36協定を「締結し、特別条項も締結」している企業は35.2%でした。

この36協定を締結・届出せずに法定労働時間を超えて労働させることは、労働基準法違反となり、企業は罰則(6箇月以下の懲役または30万円以下の罰金)の対象となるため、注意が必要です。

36協定で定められた月45時間等の上限を超える労働強要は違法

36協定を締結していれば無制限に時間外労働をさせられるわけではありません。

法律により、時間外労働には上限が設けられており、原則として月45時間・年360時間と定められています。

例えば、1日12時間労働で、法定の8時間を超える時間外労働が毎日4時間発生する場合を考えてみましょう。

週5日勤務と仮定すると、1週間の時間外労働は20時間(4時間×5日)となります。

1ヶ月を4週間とすると、月間の時間外労働は約80時間となり、これは原則の上限である月45時間を大幅に超えることになります。

企業が36協定で定めたこの上限時間を超えて労働を強要した場合には、労働基準法違反となります。

残業が月45時間を超える場合は特別条項付き36協定の締結が必要

原則である月45時間・年360時間を超える時間外労働を例外的に可能にするためには、「特別条項付き36協定」の締結と届出が必要です。

この特別条項を適用する場合であっても、時間外労働は年720時間以内、単月では100時間未満(休日労働を含む)、かつ連続する2ヶ月ないし6ヶ月のいずれの平均も80時間以内(休日労働を含む)といった厳しい上限が設定されています。

さらに、特別条項が適用できるのは、あくまで「臨時的かつ特別な事情」がある場合に限られます。

例えば、1日12時間労働が常態化し、月80時間程度の時間外労働が慢性的に続くような状況は、この「臨時的かつ特別な事情」とは認められにくい可能性が高いと考えられます。

特別条項の要件を満たさずに、これらの上限時間を超える時間外労働をさせることは違法であり、注意が必要です。

時間外・休日・深夜労働に対する割増賃金が支払われていないと違法

割増賃金とは、企業が労働者に対し、法定労働時間を超える時間外労働、法定休日(労働基準法第35条で定められた週1日または4週4日の休日における労働)、そして深夜労働(午後10時から午前5時)に対して、法律で定められた割増率以上の賃金を支払う義務のことです。

1日12時間労働で法定労働時間が8時間の場合、これを超える4時間は時間外労働となり、企業は通常の賃金に対して2割5分以上の割増賃金を支払わなくてはなりません。

さらに重要な点として、時間外労働が月60時間を超えた部分については、5割以上の割増賃金を支払う必要があります。

この規定は、2023年4月1日からは中小企業にも適用されています。

これらの割増賃金が正しく計算され、支払われていない場合、いわゆる「サービス残業」の状態となり、労働基準法第37条違反となります。

この場合、労働者は企業に対して未払いの割増賃金を請求する権利を持ちます。

厚生労働省が公表した「長時間労働が疑われる事業所に対する令和3年度の監督指導結果」によると、監督指導を行った事業所のうち、8.3%にあたる2,652箇所で賃金不払残業が確認されており、依然として多くの企業で問題が残っている状況がうかがえます。

タイムカード・メールなどで証明できれば退職後でも未払い残業代は請求できる

未払い残業代の請求権は、労働者に認められた正当な権利であり、在職中はもちろんのこと、退職後であっても行使することが可能です。

未払い残業代を請求する際に最も重要となるのが、実際に労働した時間を客観的に証明できる証拠です。

口頭での主張だけでは証拠として不十分と判断されることが多いため、具体的な記録を確保しておくことが求められます。

これらの証拠を収集・整理することで、実際の労働時間を具体的に立証しやすくなります。

未払い残業代の請求権には時効があり、現在の法律では賃金請求権の時効は原則として3年(ただし、2020年3月31日以前に発生した賃金については2年)と定められています。

時効が完成すると請求権が消滅してしまうため、未払い残業代がある可能性に気づいた場合は、早めに労働基準監督署や労働問題に詳しい弁護士、社会保険労務士などの専門家に相談することを推奨します。

12時間労働がきついと感じる人のよくある質問

1日12時間労働の場合、休憩時間は法律でどのように定められていますか?

労働基準法第34条では、労働時間が6時間を超え8時間以下の場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩を労働時間の途中に与えなければならないと定めています。

したがって、1日12時間労働の場合、企業は労働者に最低でも合計1時間の休憩を与える義務があります。

この休憩時間は、原則として一斉に与えられ、労働者が自由に利用できるものでなければなりません。

ただし、特定の業種(運輸交通業、商業、金融・広告業、映画・演劇業、通信業、保健衛生業、接客娯楽業及び官公署)や、労使協定がある場合には、一斉付与の原則は適用されません。

1日12時間労働が続いた場合、残業代はどのように計算されますか?具体的な計算例を教えてください。

1日12時間労働で、会社の所定労働時間が8時間の場合、1日あたり4時間が法定時間外労働、いわゆる残業となります。

この時間外労働に対しては、通常の賃金の2割5分以上の割増賃金(残業代)が支払われなければなりません。

さらに、時間外労働が月に60時間を超えた部分については、5割以上の割増賃金を支払う必要があります。

例えば、時給2,000円の方が1ヶ月に22日、毎日12時間働いたとします。

1日の法定時間外労働は4時間です。

月の総時間外労働時間は4時間×22日 = 88時間となります。

この88時間のうち、

  • 最初の60時間分:2,000円 × 1.25 × 60時間 = 150,000円
  • 60時間を超える28時間分:2,000円 × 1.50 × 28時間 = 84,000円

合計の残業代は、150,000円 + 84,000円 = 234,000円です。

なお、「固定残業代(みなし残業代)」が給与に含まれている場合でも、実際に発生した残業代が固定残業代の額を上回る場合は、その差額を企業は支払う義務があります。

1日12時間労働が常態化している職場は、いわゆるブラック企業に該当しますか?

「ブラック企業」という言葉に法的な定義は存在しません。

しかし、1日12時間労働が常態化し、その背景に労働基準法などの法令違反(例えば、36協定の未締結や上限を超える時間外労働、適切な休憩が与えられない、残業代の未払いなど)が横行している場合、それは労働者を不当に酷使する企業であり、一般的に「ブラック企業」と称される状態に近いと言えます。

厚生労働省が実施する「長時間労働が疑われる事業所に対する監督指導結果」では、実際に多くの事業所で違法な時間外労働や賃金不払残業が確認されています。

労働条件が著しく悪い、法令遵守の意識が低いといった状況は、問題点として認識する必要があります。

1日12時間労働がきつく、体調不良で辞めたい場合、自己都合退職ではなく会社都合退職として扱われる可能性はありますか?

通常、労働者自らの意思で退職する場合は「自己都合退職」として扱われます。

しかし、1日12時間労働という長時間労働が原因で体調不良に至り、医師の診断書などでその因果関係が客観的に証明できる場合や、法定時間外労働が月45時間を大幅に超えるような状況(例えば3ヶ月連続で月45時間を超える時間外労働があった等)が継続していた事実がある場合など、ハローワークが「正当な理由のある自己都合退職」と判断する場合があります。

この場合、失業保険の給付において、給付制限期間が免除されるなど、会社都合退職の場合と同様の有利な取り扱いを受けられることがあります。

最終的な判断はハローワークが行うため、タイムカードの記録や医師の診断書などの証拠を準備し、管轄のハローワークに相談することが重要です。

看護師の2交代勤務などで1日12時間労働となる場合、これも違法なのでしょうか?

看護師の勤務形態でみられる1回の勤務が12時間を超える2交代制などは、直ちに違法となるわけではありません。

これは、労働基準法で認められている「1ヶ月単位の変形労働時間制」などを採用している場合があるためです。

変形労働時間制とは、特定の週や特定の日に法定労働時間を超えて労働させることができる代わりに、一定期間(例えば1ヶ月)を平均して週の労働時間が法定労働時間(原則40時間)以内に収まるように調整する制度です。

この制度を適法に導入・運用し、かつ時間外労働が発生する場合には36協定の締結・届出とそれに基づく運用、そして適切な休憩時間の確保、割増賃金の支払いがなされていれば、1日12時間労働も法的には可能です。

重要なのは、これらの制度が法律の要件を満たして正しく運用されているかという点になります。

1日12時間労働が続き、睡眠不足で健康が心配です。企業はどのような健康管理を行う義務がありますか?

企業には、労働安全衛生法に基づき、労働者の健康と安全を確保する義務(安全配慮義務)があります。

1日12時間のような長時間労働が続く場合、睡眠不足などによる健康障害のリスクが高まるため、企業は特に労働者の健康管理に注意を払う必要があります。

具体的には、時間外・休日労働時間が1ヶ月あたり80時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められる労働者から申し出があった場合には、医師による面接指導を実施する義務があります(労働安全衛生法第66条の8)。

また、研究開発業務従事者や高度プロフェッショナル制度の対象者については、一定の時間を超えた場合に申し出がなくても面接指導を実施しなければなりません。

厚生労働省の「長時間労働者への医師による面談・指導の手引き」なども参考に、企業は適切な健康確保措置を講じることが求められます。

労働者自身も、自身の健康状態に注意を払い、不調を感じた場合は早めに会社に相談したり、医師の診察を受けたりすることが大切です。

まとめ

1日12時間労働が常態化している場合、その働き方がご自身の労働契約や労働基準法に照らして適法であるか、そして心身の健康にどのような影響があるかを正確に把握することが極めて重要です。

本記事で提供した情報を基に、ご自身の労働状況を客観的に評価し、健康と権利を守るための具体的な行動計画を立てることを推奨します。

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